ラグビー世界大会と3つのブランディング要素

― 話は変わりますが、今年の「こーばへ行こう!」の開催日は、東大阪での試合日程(9月22日)と重なっていますね。このラグビー世界大会というタイミングをどう捉えていますか。

巽室長:東大阪市が国内外から注目を浴びることは間違いない。ラグビー世界大会にあわせて、東大阪市としても特別な発信をしています。もちろん「こーばへ行こう!」の情報も発信していきますので、このタイミングで開催することにも意味があると思います。

草場:東大阪市は「モノづくりのまち」であり「ラグビーの町」ですが、実は「学生の町」でもあるんです。市内に大学が4つもあるんですよ。だから東大阪市には「モノづくりのまち」、「ラグビーの町」、「学生の町」3つもブランディングの要素があるんです。

西野教授:これまでは近畿大学と連携しましたが、将来的には市内の大阪商業大学、大阪樟蔭女子大学、東大阪大学などとも手を組むことができれば、学生たちが地域の事を知るきっかけにもなると思います。今年からは「こーばへ行こう!」の実行委員会もできたので、他の大学も巻き込んで行ければと思っています。

巽室長:東大阪市はその4大学に加えまして、大阪産業大学(大東市)と大阪経済法科大学(八尾市)とも連携・協力に関する包括協定を結んでいますので、周辺6大学も巻き込みながら進めて行ければいいと考えています。

草場:工場は、汚い、危ない、給料が安い、廃業が多いなどネガティブなイメージが持たれやすいのは事実です。でも意外と「工場がかっこいい」という工場男子、工場女子も出てきているんです。作ることが、カッコイイと思う若者たちが多くなってくるといいですね。東大阪市は、工場が身近にある町だからこそ、小さな幼児の時から工場に触れる機会が多い。工場に近いという特徴を生かして『未来の職人になりたい』と思うきっかけ作りを、積極的に促していきたいですね。

巽室長:たとえば、高校での職業体験の希望を聞くと商業関係や福祉関係が多い。製造現場はあまりないんです。なぜかというと「製造現場のイメージがわかない」ということで二の足を踏んでしまう。こういう所だよと分かってもらえたら、たぶん職業体験の希望もふえるのではないかと。

西野教授:工場の従業員の家族や子どもが、お父さんがどういう仕事をしているか、どんなものを作っているかというのを知らずに育っている家庭が多い。昨年の「こーばへ行こう!」の時のように、家族で来てお父さんが作っている現場を見るということは、子どもがモノづくりにふれる機会としてもいいですよね。

「お父さんが作った照明が欲しい」

草場:自社ブランドの展示会で、製品の主役であるヘラ職人を会場にまで来てもらい、プロダクトの制作過程を実演すると、ものすごく人が集まってくるんです。実際、B to CのC、最終のエンドユーザーが興味を持っているように感じました。メーカーのお客さんを突き詰めていくと市民の人たちになる。人々が何に感動して、プロダクトを欲しいと思うのか。市民の人たちが喜ぶ姿に、現場の人間が直接ふれること。それをつなげる機会が市民と工場とのイベント「こーばへ行こう!」なんだと、実際やってみて感じました。

昨年の「こーばへ行こう!」の一番人気は、工場の中のガイドツアーでした。ラグビーやキッズダンスなど、どれも人気だったのですが、1時間に1回行ったガイドツアーの参加者は毎回40~50人。後ろが見えないくらい人が集まったんです。

実は、私が一番「人が集まらないのではないか」と怖かったのが、このガイドツアーでした。「サクラを作らなければならないのでは?」と思っていたくらい。「地味な機械や作業に、誰が興味あんねん」というのが本心でした。しかし実際はたくさんの人が集まった。いい意味で裏切られて、とてもうれしかったです。

最初は「市民イベントはボランティアだ」と考えていました。でもいざやってみると、本業では決して学べないことを、たくさん学ぶことができて、とても良い経験をさせてもらったと思っています。自分たちにとっても、すごく勉強になることに気がついたのです。「こーばへ行こう!」では、社員が接客をする、職人が市民に対して呼びかけをする、自分の作っているところを見てもらえる。工場側としても、そういった普段できない経験ができる。何十年とずっと同じ所で、黙々と同じ物を作り続けていた人が、見た人に直接「すごい」とほめられるんです。

昨年も、ひとつよいことがありました。ある職人さんの娘さんから、「お父さんが、これだけ注目されてるっていう事に感動した(お父さんが作った)照明が欲しい」という連絡が来たんです。この方、長野に嫁いでおられるんですが「こーばへ行こう!」の様子を見てつながったんですよ。その職人さんは御年70歳オーバーの方。娘さんは小さい頃から、ものを作っているお父さんの背中を見ていた。それがこういう場で、初めて一般の方々に披露されて「これだけたくさんの人にお父さんが見られ、ほめられているという事に感動した」ということなんです。

巽室長:最近テレビなどで「匠の技」と色々な職人さんたちが取り上げられたりしていますが、実際の「音」、「匂い」、「振動」、「迫力」これは現場に行かないと絶対体感できないことなんですよね。

― 盛光SCMでは、工場見学には対応しているんですか?

草場:工場見学は積極的に受け入れています。地元の小学生の受け入れや、東大阪の観光協会さんからのお話で、バスの工場観光ガイドツアーなども。小学生の工場ガイドツアーの前に聞いたのですが、「お父さんお母さんがモノづくりの仕事をしているひと」っていうとパッパッパッと手が挙がる。でも「何を作っているの?」と聞くとみんな答えられないんです。子供ですら、親が何をつくっているのかを知らない。それだけ工場って閉鎖的だったんです。日本は「モノづくり大国」なのに、実は身近な人々もその内容を知らないというのが現状でしたね。昔の工場は「関係者以外立ち入り禁止」みたいな看板があるのが当たり前でしたから。

巽室長:騒音とかの問題もあって、入り口は閉鎖してしまう。なので外から見ても、何をしているか分からないんです。

西野教授:例えば「住工共生」というキーワードがあります。「住工共生」とは工業系と住居系がうまく共生するという意味。例えば毎日のように工場から騒音がある。「この音は、この機械から出ているんだな」というのを地域住民が知ることにより、お互いの理解も深まり、工場と住民が同じ地域でうまく共生していけるということなのです。

― 工場見学の受け入れを始めたのは「こーばへ行こう!」を開催してからですか?

草場:いえ、その少し前からです。やっぱり工場見学を断るところも結構多いみたいですね。忙しいときに業務が止まるとか、そういう理由で断られるといって、小学校の校長先生がうちに来られたこともありました。近隣の小学校の授業で町を散歩して、子どもたちに「どこの工場に一番興味があった?」と聞くと「お皿を作っている工場に行ってみたい」と。どうやら、うちのことだったようです。全然お皿じゃないんですけど、そういう子がクラスに何人かいたっていうことで、先生が「見学にこさせてもらえませんか?」とおっしゃった。それがきっかけでした。

 

「こーばへ行こう!」から広がる輪

― 今回の「こーばへ行こう!」の内容はどうなっていますか。

草場:大きくは「職人技Liveパフォーマンス」と「職人さんが商店街に。文房具をつくろう!」というワークショップです。ワークショップは職人と一緒に作っていく。お皿も平たい鉄板をひとつひとつ叩いていくんですよ。まずは平面からこれを折り曲げる、折り曲げてトレイにして。そこからデザインしていきます。この叩いた跡「槌目(つちめ)」っていうんですけど、味わいのある手作り感がでます。

― 今回参加している工場は、自分から手を上げたのですか?

草場:そうですね。昨年の「こーばへ行こう!」に来てくれた工場さんが多かったです。実はワークショップを担当してくれる5社とは、本業では取引がないんです。「昨年のこーばへ行こう!を見て」といって、市役所さんを通じて紹介していただいた工場さんもいます。「自分たちも何かしてみたい」と心の中で思っていた社長たちが集まったという感じですね。

西野教授:参加する工場が、昨年の1社から今年は6社になりました。来年、再来年と続けていく中で将来的には20社、30社となることを目標としています。

草場:「こーばへ行こう!」などのイベントは、本業に関わりないと思われがちですが、私が実際やってみて思ったのが、本業にむちゃくちゃ関係があるということ。「ああメーカーってこういうことなんだな」ということが、イベントを通じて実体験として学べる。ものすごく勉強になりました。

― 普段体験できないようなことが、工場側としても体験できるということでしょうか。

草場:やっぱり最終は、エンドユーザーがよろこぶ様子に作っている人が直接ふれられるということ。商流の中で、作る側と買う側が直接ふれ合うことは、現場を知るうえでも、ものすごく意味があると感じました。

西野教授:こういうオープンファクトリーは、東京の大田区や新潟の燕三条など、全国のモノづくりの町で行われています。市民や他府県からの人たちも巻き込んで、「町の工場でなにが製造されているか」ということを広めている。そういう例を踏まえながら、後発ではありますが東大阪市でもプロジェクトを進めてきました。

今年の12月21日には、近畿大学でオープンファクトリーに関するシンポジウムも計画しています。全国の「モノづくりの町」から、オープンファクトリーを主催する代表者の方々に集まっていただき、オープンファクトリーがもたらす効果や事例を発表していただく予定です。

巽室長:今回新たに「こーばへ行こう!」に参加していただいた工場の社長さんが、みな40代くらいと若いんです。そういう若い社長さんのネットワークができつつある、ということは非常に大事なことで、我々も大変嬉しく思っています。

東大阪市のようなモノづくりは、横のネットワークが非常に大事だと言われているんですが、現状は70代以上で高度成長期に、モノづくりをされた社長さん達のネットワークが主なんです。さらにそのネットワークも、年齢による廃業や引退によって崩れつつある。こういうイベントを通して、新たに若い社長さんのネットワークができつつあるというのが、「モノづくりのまち」の未来に向けて、東大阪市としても非常に大事なことであると思っています。

座談会記事 協力(順不同):東大阪市モノづくり支援室 / 近畿大学文芸学部文化デザイン学科 / 株式会社 源邑光 北野刃物製作所 / 共和鋼業 株式会社 / 株式会社 摂津金属工業所 / 布施金属工業 株式会社 / 株式会社 松下工作所

今年の「こーばへ行こう!」は、出張オープンファクトリー!

「こーば」をもっと身近に体感していただくために、出張オープンファクトリーとして「東大阪産業フェア」にて開催します。Liveパフォーマンスで職人技を生で体験していただけるほか、その場で楽器を作ってライブ参加したり、文房具を作る「モノづくり」体験ができます。ぜひご来場ください。

日時/2019年9月21日(土)10:00~17:00 22日(日)10:00~19:00

※他のイベント会場は開催時間が異なりますので、下記サイトで詳細をご確認ください。

[ 東大阪産業フェアWEBサイトはこちらから ]