こーばへ行こう!2019 直前座談会

長年に渡り、工場は「関係者以外立ち入り禁止」が当たり前でした。
でも、市民の方々は関係者ではないのでしょうか。


子供たちは、東大阪の工場で何をつくっているのか理解していません。
世界に誇る技術を保有している工場が、身近にこんなにたくさんあるのに・・・

閉鎖的だった工場を、もっとオープンに。
モノづくりの楽しさを、市民と一緒に。


住民も工業も商業も学校も役所も、境界線を取っ払ってみんなで遊ぼう!
こんな思いから始まったのが「こーばへ行こう!」です。
「モノづくりのまち 東大阪」が、ずっと活気溢れる町であり続けるために。
私たちの企業活動の大きな目的の一つです。

「こーばへ行こう!」2019 実施企業(五十音順)
株式会社 源邑光 北野刃物製作所 / 共和鋼業 株式会社 / 株式会社 盛光SCM / 株式会社 摂津金属工業所 / 布施金属工業 株式会社 / 株式会社 松下工作所

「モノづくりのまち 東大阪」で、普段は入れない工場を特別に開放して、住民のみなさんにモノづくりの楽しさを知っていただくオープンファクトリーイベント「こーばへ行こう!」。2018年10月に盛光SCMと近畿大学、東大阪市による共催で、盛光SCMを会場に開催されました。

2019年は内容がさらにパワーアップ! 9月21日(土)・22日(日)の2日間、布施駅北口交通広場や布施駅北部三番街商店街、クレアホール・ふせを会場として開催されます。ラグビー世界大会開催で盛り上がる東大阪。「こーばへ行こう!」を開催する事により、モノづくりの現場を知ってもらい、工場をもっと身近に感じて欲しい。弊社社長 草場寛子をはじめ、東大阪市経済部モノづくり支援室・巽 佳之室長、近畿大学・西野 昌克教授と「こーばへ行こう!」に関わる3名による座談会を開催し、「こーばへ行こう!」開催の意義やこれからの目標などを語り合いました。

(聞き手:二木繁美)

ラグビー世界大会をきっかけに

― 「こーばへ行こう」プロジェクトを開催することの意味。その始まりや、きっかけを聞かせてください。

巽室長:今年ラグビー世界大会が東大阪で開催されるにあたり、もっと東大阪も国内外に打って出なくてはならないだろうと考えていました。でも市役所だけではむずかしい。そこで、発信力、総合力がある市内の大学さんということで、近畿大学さんにお願いしました。「モノづくりのまち 東大阪」のブランディングとして、西野教授をはじめとする近畿大学の教授8名と東大阪市、さらに商工会議所の三者が協力してスタートしました。

巽 佳之 氏
東大阪市モノづくり支援室 室長

東大阪市役所にて保健衛生部・環境部などで保健衛生や公害対策を推進、2018年より現職。東大阪市出身。

― 西野教授はお話があったとき、いかがでしたか?

西野教授:最初は本当にまったくゼロからのスタートでした。東大阪市と近畿大学とで、何が出来るかということになりました。我々、近畿大学 文芸学部文化デザイン学科には、デザインの教授もいれば、プロデュース、感性学などさまざまな人間がいます。文化デザイン学科の主任である、岡本清文教授から、総合的なブランディングの為に様々なプロジェクトが生まれていったんです。

当初は「こーばへ行こう!」というネーミングもありませんでした。それでとりあえず、こういう工場で働いてる、工場の中で何をしている、どんな人がいるのかっていうことを、それぞれ可視化しようと考えました。地域の人や市民、関係者に向けて「そういうことをオープンにしようよ」となったんです。

「そういうこと」と言うのは、工場の中を外に向けてどう発信するかということ。東大阪市でも工場見学は実際行われていますし、修学旅行生たちが工場を見に来るっていうプロジェクトもあります。ですので、先ほど巽室長から出てきた『インナーブランディング』に焦点を当てることにしました。

巽 佳之 氏
東大阪市モノづくり支援室 室長

東大阪市役所にて保健衛生部・環境部などで保健衛生や公害対策を推進、2018年より現職。東大阪市出身。

モノづくりをもっとオープンにしたい!

― どういうきっかけで草場社長にお話されたのですか。

巽室長:草場社長とは以前からお付き合いがありました。こういう取り組みにつきましては、企業のトップの方の想いというのが非常に重要になります。草場社長は、他府県で開催されているオープンファクトリーにすごく刺激を受けておられました。さらにモノづくりへの思いと、それを打ち出したいという思いが非常に強い方。それで、こちらからお声がけさせていただきました。

西野教授:会社の事業内容によっては、秘密事項も含まれたりしますので。「工場をオープンにしてもらえる企業さんは、どこかないか?」という事で、モノづくり支援室に相談をしました。

そこから何社か候補を挙げていただき、その中で草場社長にお会いして、「この方なら積極的に関わっていただけそうだ」と思い、お願いしました。そうやって初めて産官学の連携がとれるようになったのが昨年の7月です。

巽室長:こういう取り組みでは本人のやる気だけではなく、会社の規模や、どのくらい受け入れていただけるのかも大事になるんですが、そういう意味でも草場社長のところはピッタリだと思いました。

「入れ過ぎちゃう?」というくらい詰め込んだ

巽 佳之 氏
東大阪市モノづくり支援室 室長

東大阪市役所にて保健衛生部・環境部などで保健衛生や公害対策を推進、2018年より現職。東大阪市出身。

― 昨年初めて開催された「こーばへ行こう!」ですが、開催後に何か反響などありましたか。

草場:反響というか、まず市民の人達を工場に呼び込むということが創業以来初めての試み。どうやって市民のみなさんを迎え入れたらいいのか、さらにみなさんが果たしてモノづくりに興味があるのか?というところも半信半疑の状態で、近畿大学の先生や学生さんと一緒になって、企画を立ち上げたんです。

イベントには、ラグビーワールドカップを意識して「ラグビー」というキーワードも入れました。外に人工芝をひいて、ちびっ子ラグビーの試合を開催。そして、駐車場に飲食物のマルシェを呼び、工場で作ったテーブルや椅子を並べ、飲食も楽しんでもらいました。2階ではワークショップを開催して、金属加工や組み立てにも触れてもらいました。あとは工場見学ツアーも。企画を盛りだくさんに入れ込んだんです。「入れ過ぎちゃう?」っていうくらい入れましたね。

西野教授:まずはやるからには集客しないと意味がありません。出た企画は「とりあえず全部やってみよう」となりました。うちは学生やゼミ生たちがたくさんいますので、彼らを駆り出してライブ演奏などをしました。ギターと歌、アカペラグループなどです。来ていただいた人たちに色々回っていただけるように、全館、各フロアを使って色々やりましたね。

草場:広報活動も大変でした。盛光SCM自体が、市民の人たちとつながりがありませんでしたから。しかしそこは、市役所の知恵と情報発信力を利用させていただきました。市役所から近隣の小中学生にリーフレットを配布してもらったのです。私たちにはできないことは、市役所の方々の手を借りました。

あとは、今年もやる予定なんですが、うちの社員で広報活動のチームを作りました。開催の2週間前ぐらいから、北巽、布施界隈など、ここから自転車で通える範囲でチームを6つに分け、工場、商店街、飲食店など地元の方々に、口頭で1件ずつ「こーばへ行こう!」のコンセプトを伝え、リーフレットを渡して回る活動をしました。地元の人たちに、きちんと自分たちの口で伝えたいと思ったんです。

その反響か、イベント当日は開催前から入場待ちの列ができました。人を呼ぶために飲食にも力を入れ、駐車場でマルシェを開催。ケバブ、クレープ、タピオカジュースに加え、近畿大学の学生さんにも屋台を出してもらいました。さらに京都からラテアートを呼んだりして。それがすべて14時くらいには完売。丸々としたケバブの肉もお昼過ぎには細~くなって、鉄の棒が見えるんじゃないかってくらいになってましたね。それくらい集客ができたんです。当初300人集まるかなと言っていたのが、結果的には730名ほどの市民の方々と、私たちと取引のない、町工場の社長さんたち100社くらいが来てくださいました。初めての試みにしては、予想外の大反響だったのです。

外に向けての発信を考える

草場:巽室長や西野教授は色々なイベントを見てこられていると思います。私はこういうイベントは初めてなので、おふたりに聞いてみたいのですが、他のイベントと「こーばへ行こう!」の違うところはありますか。

西野教授:私は4年前に近畿大学に赴任しました。最初に関わったのが、東大阪市の「モノづくり支援室」。それまでは市内でアートのプロジェクトなどを手がけていたのですが、モノづくり支援室を通して東大阪に関わる中で、ここではアートを追いかける必要はないと考えるようになりました。

東大阪の特徴は「中小企業、町工場などの地域がもっているコンテンツが生きている」というところです。東大阪市に関わるようになって、それらを外に向けてどう発信すれば良いか考えました。他のイベントにも言えることですが「アートがあるから人が集まるのではなくて、人が集まるからアートが必要なんだ」という風に、私の考えも変わってきたのです。

人が集まるその先には、産業の活性化があります。そのためには今あるもの可視化して、人を出迎える必要がある。盛光SCMさんの工場にも、イベントを通してたくさんの人が来る。普段1人で黙々とお仕事されてる職人さんたちが、たくさんの人に囲まれて見られながら実演する。そういった非日常を「こーばへ行こう!」を通じて、盛光SCMの社員さんたちにも体験してもらったんじゃないかと思いますね。

巽室長:今まであった産学官っていうと、大学さんと企業さんをつないだ製品開発やデザインなどでした。今回は産学官が「力を合わせた」イベントです。こういった現場を使った取り組みは、今回が初めてでした。

― いまお話が出ましたが、産学官がタッグを組むことの意義は何でしょうか。

西野教授:学生たちにとっては、よい経験ができるということではないでしょうか。彼ら自身、子どもの頃から町内会や子供会など、地域の活動に自分が参加する側としての経験はしています。しかし自分たちが大きくなったとき、子どもたちにどう接するか。「こーばへ行こう!」を通じて地域に関わる経験をすることによって、考えが変わっていくと思うんです。

「地域を活性化する」ということがどういう事か、学生たちに直に伝わっていると思います。イベントに関わることによって、最近よくいわれている「社会貢献」や「支援活動」を体感することができる。この2つに関しては、企業も認識を高めていますので、彼らが卒業して社会に出る際に「自分たちがこういうことに関わり、勉強して、身につけてきました」ということが、将来きっと役に立つ。彼らがこういったイベントなどを通して、学生時代に身につけた経験をもとに、社会でも色々な活躍ができるようになると確信しています。

今年の「こーばへ行こう!」は、さらにパワーアップ!

― 今年の「こーばへ行こう!」はどういう内容になりそうですか。

草場:今年は布施商店街で出張オープンファクトリーを開催します。昨年と違って、工場をまるごとお見せするわけではありませんが、布施商店街のクレアホールを貸し切って、1時間に1回のスケジュールで職人の技術のパフォーマンスをお見せする予定です。プロジェクターを使って、まるで映画を見ているような実演をします。始まったとたん、クレアホールが一瞬にして工場に変わるんです。そこに「溶接」、「タタキ板金」、「ヘラ絞り加工」の3人の職人を呼んで、スポットライトをあてながら、15~20分ほどパフォーマンスをしてもらう予定。クレアホールの中に2日間だけ工場が出現するんです。

あとは、職人と一緒に作るワークショップ。今年は工場5社が集まって、8アイテムを作成します。「金網」、「タタキ板金」、「パイプ加工」、「刷毛・ブラシ」、「金属加工」の職人がお互いタッグを組んで、ペンケースやスタンドボード、黒板など、文具のアイテムを作ります。職人に直々に指導を受けて、一緒に作るワークショップです。昨年は考える時間もなかったけど、今年は色々と違いますよ。

巽室長:東大阪市は、今年も広報活動に尽力できればと思っています。先ほども産官学の話が出ていたかと思いますが、それぞれの強みを生かしながらやっていきたいと考えています。こういう取り組みの主役は、あくまで「産」である企業さんです。我々は持ってるツールを使って、広報活動や情報発信をがんばります。あとは企業さん同士のご紹介などを中心に動いていく予定です。

学生のアイデアと工場の技術がコラボ

草場:昨年と今年の一番違うところは、学生と工場が一緒にイベントを作り上げたところ。今年は近畿大学の文芸学部の学生さんたち26名と「何を作るか」、「ワークショップの商品企画は何がいいか」などを一番最初から話し合って決めました。

― こういう物があったらいいなという学生のアイデアと、工場の技術のコラボレーションですね。

草場:そうですね。学生さんたちも、それぞれ企画を一生懸命考えてくれた。本当に産学官の協力ができました。あとはそれを本番にどう発散するかですね。運営する過程での学生さんと工場との関わりにも、ものすごく意味があったと思います。

西野教授:今年は私のゼミの3・4年生、合わせて26名が参加しています。今回5社のワークショップがありますが、それぞれ4人ずつの班に分けて工場へ行き、工場の社長さんたちと話をしています。さらにこれから、例えば「こーばへ行こう!の写真をインスタにアップしてね!」というような、自分たちの視点で良いと思う活動も取り入れていこうと考えています。

草場:学生さんたちと、昨年もやったリーフレットの手配り広報活動を「今年もやろう!」と話しています。工場の社長さんたちも一緒に、東花園から布施までの近鉄沿線の各駅を制覇しようと。各地域の担当も、すでに振り分けているんですよ。

― 今年は広報活動に学生さんも参加すると言うことですね。

草場:そうです、学生さんたちは広報への意欲がある。一番最初から参加しているので、工場とのコミュニケーションもすごくとれています。近畿大学もひとつの会社として役割分担し、大学の構内やJR長瀬駅、小阪駅を担当してくれます。あとは当日の天気だけですね。

魔の「スマイルカーブ」

― 東大阪市のモノづくりに関するこれからのビジョン、未来について教えてください。

草場:私が社長に就任して、今年で10年目になります。自分の工場も含めて、東大阪の工場を客観的に見て思うことは「会社に良い技術があったとしても、現状、埋もれてしまっている」ということ。会社に良い技術があるというのではなく、会社の中にいい職人がいるという技術がブランディングされておらず、みんなに知られていない。業界の中では有名かも知れないが、職人が活躍する場という所までつながっていないのではないかと思います。

東大阪は、面積の割に工場の密集度が高いんです。でも、工場同士の連携が取れているわけではない。今までの商流は、メーカーがあっての1次下請け、2次下請けという形でした。一般に知られていなくても、その業界で知名度があれば、売ってくれるメーカーの方から勝手に仕事がやってくる時代だった。しかし今、そこが少し崩壊しかけている。日本のメーカーは日本の工場でなくてもいいという時代が、数十年前から来ているんです。

工場自身がメーカーになるとまではいかなくても、「職人をどう全世界に発信していけるのか」が大事になってくる。自分でセルフプロデュースをしたり、何かむずかしいものを作れるということだけではやっていけない。物がキレイだから売れるのではなく、プロダクトのストーリーに感動して売れていくということ。職人自身の「インナーブランディング」が、これから必要になってくるのではないかと思うんです。職人が自分で売り上げを獲得できるような力を付けて、商品企画、製造、販売がトータルにプロデュースできるようになり、全体の経済活性を目指すというのが最終目標だと思っています。

― 職人さん一人一人には、なかなか光があてられていないと。

草場:プロダクトのデザイナーはフィーチャーされるんですけど「それを作ったのは○○製作所ですよ」という紹介はないんですよね。私はデザイナーはもちろん、それを形にした職人も同じくらいすごいと思うんです。でも中々そこには光があたってこなかった。これから、そこにも光をあてるような活動を積極的にしていきたいなと考えています。

巽室長:「スマイルカーブ」を思い出しますね。「スマイルカーブ」とは、製品を作った時の利益配分のグラフの形。グラフにすると設計した人と売る人の部分、両端が上がって笑顔のように見えるのです。草場社長がおっしゃったように、真ん中のこの部分(作った人)が取れていない。光があたっていないし、そこに価値を見いださないので、利益配分がいかない。それが現状ですね。「スマイルカーブ」っていう名前は可愛いんですけど。

草場:グラフ自体は全然可愛くないですね。もっと職人にも光をあてて、カーブをフラットにしていきたいですね。

ラグビー世界大会と3つのブランディング要素

― 話は変わりますが、今年の「こーばへ行こう!」の開催日は、東大阪での試合日程(9月22日)と重なっていますね。このラグビー世界大会というタイミングをどう捉えていますか。

巽室長:東大阪市が国内外から注目を浴びることは間違いない。ラグビー世界大会にあわせて、東大阪市としても特別な発信をしています。もちろん「こーばへ行こう!」の情報も発信していきますので、このタイミングで開催することにも意味があると思います。


草場:東大阪市は「モノづくりのまち」であり「ラグビーの町」ですが、実は「学生の町」でもあるんです。市内に大学が4つもあるんですよ。だから東大阪市には「モノづくりのまち」、「ラグビーの町」、「学生の町」3つもブランディングの要素があるんです。


西野教授:これまでは近畿大学と連携しましたが、将来的には市内の大阪商業大学、大阪樟蔭女子大学、東大阪大学などとも手を組むことができれば、学生たちが地域の事を知るきっかけにもなると思います。今年からは「こーばへ行こう!」の実行委員会もできたので、他の大学も巻き込んで行ければと思っています。


巽室長:東大阪市はその4大学に加えまして、大阪産業大学(大東市)と大阪経済法科大学(八尾市)とも連携・協力に関する包括協定を結んでいますので、周辺6大学も巻き込みながら進めて行ければいいと考えています。


草場:工場は、汚い、危ない、給料が安い、廃業が多いなどネガティブなイメージが持たれやすいのは事実です。でも意外と「工場がかっこいい」という工場男子、工場女子も出てきているんです。作ることが、カッコイイと思う若者たちが多くなってくるといいですね。東大阪市は、工場が身近にある町だからこそ、小さな幼児の時から工場に触れる機会が多い。工場に近いという特徴を生かして『未来の職人になりたい』と思うきっかけ作りを、積極的に促していきたいですね。


巽室長:たとえば、高校での職業体験の希望を聞くと商業関係や福祉関係が多い。製造現場はあまりないんです。なぜかというと「製造現場のイメージがわかない」ということで二の足を踏んでしまう。こういう所だよと分かってもらえたら、たぶん職業体験の希望もふえるのではないかと。


西野教授:工場の従業員の家族や子どもが、お父さんがどういう仕事をしているか、どんなものを作っているかというのを知らずに育っている家庭が多い。昨年の「こーばへ行こう!」の時のように、家族で来てお父さんが作っている現場を見るということは、子どもがモノづくりにふれる機会としてもいいですよね。

 ラグビー世界大会情報はこちらから(ラグビーワールドカップ2019 大阪・花園開催公式ホームページ)

「お父さんが作った照明が欲しい」

草場:自社ブランドの展示会で、製品の主役であるヘラ職人を会場にまで来てもらい、プロダクトの制作過程を実演すると、ものすごく人が集まってくるんです。実際、B to CのC、最終のエンドユーザーが興味を持っているように感じました。メーカーのお客さんを突き詰めていくと市民の人たちになる。人々が何に感動して、プロダクトを欲しいと思うのか。市民の人たちが喜ぶ姿に、現場の人間が直接ふれること。それをつなげる機会が市民と工場とのイベント「こーばへ行こう!」なんだと、実際やってみて感じました。


昨年の「こーばへ行こう!」の一番人気は、工場の中のガイドツアーでした。ラグビーやキッズダンスなど、どれも人気だったのですが、1時間に1回行ったガイドツアーの参加者は毎回40~50人。後ろが見えないくらい人が集まったんです。


実は、私が一番「人が集まらないのではないか」と怖かったのが、このガイドツアーでした。「サクラを作らなければならないのでは?」と思っていたくらい。「地味な機械や作業に、誰が興味あんねん」というのが本心でした。しかし実際はたくさんの人が集まった。いい意味で裏切られて、とてもうれしかったです。


最初は「市民イベントはボランティアだ」と考えていました。でもいざやってみると、本業では決して学べないことを、たくさん学ぶことができて、とても良い経験をさせてもらったと思っています。自分たちにとっても、すごく勉強になることに気がついたのです。「こーばへ行こう!」では、社員が接客をする、職人が市民に対して呼びかけをする、自分の作っているところを見てもらえる。工場側としても、そういった普段できない経験ができる。何十年とずっと同じ所で、黙々と同じ物を作り続けていた人が、見た人に直接「すごい」とほめられるんです。


昨年も、ひとつよいことがありました。ある職人さんの娘さんから、「お父さんが、これだけ注目されてるっていう事に感動した(お父さんが作った)照明が欲しい」という連絡が来たんです。この方、長野に嫁いでおられるんですが「こーばへ行こう!」の様子を見てつながったんですよ。その職人さんは御年70歳オーバーの方。娘さんは小さい頃から、ものを作っているお父さんの背中を見ていた。それがこういう場で、初めて一般の方々に披露されて「これだけたくさんの人にお父さんが見られ、ほめられているという事に感動した」ということなんです。

巽室長:最近テレビなどで「匠の技」と色々な職人さんたちが取り上げられたりしていますが、実際の「音」、「匂い」、「振動」、「迫力」これは現場に行かないと絶対体感できないことなんですよね。

― 盛光SCMでは、工場見学には対応しているんですか?

草場:工場見学は積極的に受け入れています。地元の小学生の受け入れや、東大阪の観光協会さんからのお話で、バスの工場観光ガイドツアーなども。小学生の工場ガイドツアーの前に聞いたのですが、「お父さんお母さんがモノづくりの仕事をしているひと」っていうとパッパッパッと手が挙がる。でも「何を作っているの?」と聞くとみんな答えられないんです。子供ですら、親が何をつくっているのかを知らない。それだけ工場って閉鎖的だったんです。日本は「モノづくり大国」なのに、実は身近な人々もその内容を知らないというのが現状でしたね。昔の工場は「関係者以外立ち入り禁止」みたいな看板があるのが当たり前でしたから。

巽室長:騒音とかの問題もあって、入り口は閉鎖してしまう。なので外から見ても、何をしているか分からないんです。

西野教授:例えば「住工共生」というキーワードがあります。「住工共生」とは工業系と住居系がうまく共生するという意味。例えば毎日のように工場から騒音がある。「この音は、この機械から出ているんだな」というのを地域住民が知ることにより、お互いの理解も深まり、工場と住民が同じ地域でうまく共生していけるということなのです。

― 工場見学の受け入れを始めたのは「こーばへ行こう!」を開催してからですか?

草場:いえ、その少し前からです。やっぱり工場見学を断るところも結構多いみたいですね。忙しいときに業務が止まるとか、そういう理由で断られるといって、小学校の校長先生がうちに来られたこともありました。近隣の小学校の授業で町を散歩して、子どもたちに「どこの工場に一番興味があった?」と聞くと「お皿を作っている工場に行ってみたい」と。どうやら、うちのことだったようです。全然お皿じゃないんですけど、そういう子がクラスに何人かいたっていうことで、先生が「見学にこさせてもらえませんか?」とおっしゃった。それがきっかけでした。

「こーばへ行こう!」から広がる輪

― 今回の「こーばへ行こう!」の内容はどうなっていますか。

草場:大きくは「職人技Liveパフォーマンス」と「職人さんが商店街に。文房具をつくろう!」というワークショップです。ワークショップは職人と一緒に作っていく。お皿も平たい鉄板をひとつひとつ叩いていくんですよ。まずは平面からこれを折り曲げる、折り曲げてトレイにして。そこからデザインしていきます。この叩いた跡「槌目(つちめ)」っていうんですけど、味わいのある手作り感がでます。

― 今回参加している工場は、自分から手を上げたのですか?

草場:そうですね。昨年の「こーばへ行こう!」に来てくれた工場さんが多かったです。実はワークショップを担当してくれる5社とは、本業では取引がないんです。「昨年のこーばへ行こう!を見て」といって、市役所さんを通じて紹介していただいた工場さんもいます。「自分たちも何かしてみたい」と心の中で思っていた社長たちが集まったという感じですね。

西野教授:参加する工場が、昨年の1社から今年は6社になりました。来年、再来年と続けていく中で将来的には20社、30社となることを目標としています。

草場:「こーばへ行こう!」などのイベントは、本業に関わりないと思われがちですが、私が実際やってみて思ったのが、本業にむちゃくちゃ関係があるということ。「ああメーカーってこういうことなんだな」ということが、イベントを通じて実体験として学べる。ものすごく勉強になりました。

― 普段体験できないようなことが、工場側としても体験できるということでしょうか。

草場:やっぱり最終は、エンドユーザーがよろこぶ様子に作っている人が直接ふれられるということ。商流の中で、作る側と買う側が直接ふれ合うことは、現場を知るうえでも、ものすごく意味があると感じました。


西野教授:こういうオープンファクトリーは、東京の大田区や新潟の燕三条など、全国のモノづくりの町で行われています。市民や他府県からの人たちも巻き込んで、「町の工場でなにが製造されているか」ということを広めている。そういう例を踏まえながら、後発ではありますが東大阪市でもプロジェクトを進めてきました。
今年の12月21日には、近畿大学でオープンファクトリーに関するシンポジウムも計画しています。全国の「モノづくりの町」から、オープンファクトリーを主催する代表者の方々に集まっていただき、オープンファクトリーがもたらす効果や事例を発表していただく予定です。


巽室長:今回新たに「こーばへ行こう!」に参加していただいた工場の社長さんが、みな40代くらいと若いんです。そういう若い社長さんのネットワークができつつある、ということは非常に大事なことで、我々も大変嬉しく思っています。
東大阪市のようなモノづくりは、横のネットワークが非常に大事だと言われているんですが、現状は70代以上で高度成長期に、モノづくりをされた社長さん達のネットワークが主なんです。さらにそのネットワークも、年齢による廃業や引退によって崩れつつある。こういうイベントを通して、新たに若い社長さんのネットワークができつつあるというのが、「モノづくりのまち」の未来に向けて、東大阪市としても非常に大事なことであると思っています。

座談会記事 協力(順不同):東大阪市モノづくり支援室 / 近畿大学文芸学部文化デザイン学科 / 株式会社 源邑光 北野刃物製作所 / 共和鋼業 株式会社 / 株式会社 摂津金属工業所 / 布施金属工業 株式会社 / 株式会社 松下工作所

今年の「こーばへ行こう!」は、出張オープンファクトリー!

「こーば」をもっと身近に体感していただくために、出張オープンファクトリーとして「東大阪産業フェア」にて開催します。Liveパフォーマンスで職人技を生で体験していただけるほか、その場で楽器を作ってライブ参加したり、文房具を作る「モノづくり」体験ができます。ぜひご来場ください。

日時/2019年9月21日(土)10:00~17:00 22日(日)10:00~19:00

※他のイベント会場は開催時間が異なりますので、下記サイトで詳細をご確認ください。

[ 東大阪産業フェアWEBサイトはこちらから ]